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ニュースレター
ユーコンの風Vol.9
(2005年6月)
Firth River前編
昨夏のFirth River
の旅を振り返り、今一番心に残るの
は、4日目のキャンプ地から、4時間ハイキングして出会った丘からの風
景である。この川の流域は、氷河期時代も凍りつかなかった。見渡す限りの景色は、正真正銘の地球のオリジナルの姿であり、そこにはマンモスや恐竜がノッソ
リ歩いた姿さえ想像できる。誰もいない場所。完全なる静寂。緑の大地に風が見える。正面に、岩が一列にゴツゴツ並んだ斜面が見えた。それはまるで恐竜の背
中のようであり、私はそれを「ダイナソー・ロック」と名付けた。
その場所は、今
まで私が旅したどの場所のなかでも、最も完全なるPristine
Wildernessであ
り、そこに自分が立っていることについて、感謝と感動を感じる瞬間だった。
Firth Riverの魅力を一言で言うと、その景観の変化とハイキングの素晴ら
しさにある。12日間の旅で、これほどまでに景色の変る川を体験したのは初めてだった。

アークティック・チャー
旅は、カリブーの走る姿があちこちで観測されるなだらかな丘陵と、穏やかで、アーク
ティック・チャー(北極イワナ)も生息する川の流れから始まる。こういう場所では、ノンビリと、ラフトに寝そべって空を見上げるのがいい。目に見える緑が
鮮やかで、足下には様々な植物も見られる。北極圏という厳しい自然環境の中で、これだけの草花が息づいていることに驚きを感じる。

中流部に横たわる瀬。でも、ラフトでは問題なく漕ぎ抜けられる。
そこから、川は切り立った渓谷と激しい流れに入る。数百メートル
の岩壁。水しぶきをあげる瀬の連続。大きな波を乗り越える度に、ラフトからは歓声が上がる。岩の上に、ドール・シープの親子が姿を現した。豊富なワイルド
ライフ・ウォッチングの機会もまた、Firth の旅
の醍醐味である。

崖の上に姿を現したドールシープの親子
やが
て、川の景色は山も木もない平坦なデルタ地帯に入り、川の流れも再び穏やかになる。頭上には、真っ白なアークティック・ターンが舞う。岩の上に立ち、どこ
までも広がるデルタを見つめていると、永遠さえ感じる。「北に、このような場所があったのか」、、、この旅で、私はしばしば自分がユーコンにいることを忘
れた。その自然形態が、ホワイトホースやユーコン川周辺のそれとは、あまりにもかけ離れているからだ。キャンプ地にて、背の低いウィローの木の枝に目をや
ると、モスコックス(ジャコウ牛)の毛がなびいていた。この辺りは、モスコックスが多く生息している。私も、この旅で野性
のモスコックスを見ることを楽しみにしていたのだが、残念ながら今回は出会えなかった。

北極圏の厳しい自然の中に咲く可憐な花
ここか
ら、川幅はみるみる広がり、それはいくつもの筋に分かれ、川が川でなくなり、いたるところに流氷が見えてくる。北極海が、近い。川旅で、こういう終焉はな
んともドラマチックである。まるで、川の人生を見、体験したような気分になる。最後のキャンプ地は、北極海沿岸。12時を過ぎ
ても沈まない太陽を浜辺に座っていつまでも眺めていた。カモメが一羽、オレンジ色に光る海上を飛んだ。

ラフトを取り囲む氷。海が近づく。
Firthの旅では、キャンプ地ごとにその周辺でのハイキングを思う存
分楽しんだ。自分たちの下っている川を上から眺めることによって、その周辺の景色にまた違った印象が生まれることもあるし、足下に咲く草花に目を落とした
り、カリブーやドールシープといった野性動物に更に近づけるのも、やはり自分の足で歩く時である。

アークティック・コットン・フラワー
一度、川辺でランチを食べているとアークティック・フォックス(北極キツネ)が姿を現し
た。今回の私たちの旅には、イヌイットのアンディが同行していたが、彼が口笛を吹くと、それまで警戒していたキツネが安心したように私たちの前を歩き出し
た。北極海から吹く強い風に向かい、凛として川を見つめる姿が印象的だった。

どこまでも広がる水の惑星ーデルタの風景
アンディは、この一帯で生まれ育ったイヌイットである。彼については、後編にて触れたい
と思う。
そのアンディが言った。「恐らく、日本人でこの川を旅したのは、ジュウジロウ・ワダ
(注)に続いて、ヨシが二人目だろうな。でも、ワダはここを冬、イヌゾリで旅したはずだから、夏はヨシが初めてだ!」。
それが本当かどうかは分からないが、この川がまだ日本に紹介されていないのは事実だろ
う。

北極海に到着
この北極圏の自然と歴史を心と体で存分に体験できるFirthの旅には、毎年世界中から多くの人々が集まってくる。その魅力を、私も是非、日本の、北
の自然に魅了される人々に伝えることができればと思う。Firth川の旅に興味がある人は、いつでもご連絡いただきたい。
-後編に続く
祝!ユーコン在住10周年
私事で
はありますが、今年4月でユーコン在住10周年を迎えました。早いものです。途中、ノースウェスト準州やオンタリ
オなど、浮気心で2―3ヶ月をあちらこちらで過ごしたことはありますが、基本的には、ここホワイトホースが私のホームとなっています。
最初、
カナダに降り立ったのは1995年の4月9日。バンクーバーでホワイトホース行きの安いチケットを探すために2日
ほど滞在したのを覚えています。
丁度、
今年の4月9日、私はバンクーバーにいたために、10年前と同じように、スタンレー・パークに散歩に行き、海を見
ながら「これから」に思いを馳せました。
10年前、そこにそうして独りで座った時には、これから何が起こるか全く想像がつきませ
んでした。胸中にあったのは、これから北に帰るのだ、という期待感だけでした(私は、その1年前にアラスカを旅しました。この話も、いつか書きたいと思っ
ています)。正直、全くと言っていいほど不安はありませんでした。恐いもの知らずもここまで来ると、図々しいほどです。当時、大学を出て、就職というオプ
ションを人生計画から外し、アルバイトしながら旅を続けるために資金稼ぎをしていた身分には、「失う」的なものは無く、「もう、こうなったら突き進むしか
ないな」「なんとかなる」と気楽に構えていたように思います。もしかしたら、今より自分自身や想いに対して自信のようなものがあったのかもしれません。
そし
て、今、その年月を振り返ると、本当に色んなことがありました。まさに変化とチャレンジ、アドベンチャーの繰り返しのような日々でした。そして、今もこう
してカナダという国に住み、ユーコンという場所に居を構えていることは、不思議でもあるし、しかし、やはり必然的に起こったことのように思います。10年間のうち、少なくとも8年間は笑顔で過ごしていたという事実が、「これで良かったのだ」と自分で思える理由です。
これか
らの10年を考えると、気持の中にグレイな部分もあるのが事実です。10年前と違い、自分の人生に「こうなればい
いな」という絵があるからかもしれません。期待をするということは、それだけ不安も抱えるということだと思います。
高校の
担任の先生が私に言ったことがあります。「熊谷は、夢見る夢子だ」。これは、全くその通り。10年後の自分がどこ
にいて、何をしているにあれ、変化を恐れない心と、夢だけは持っていたいなと願っています。
最後
に、この10年間、私が日本で、ユーコンで、出会った人々、お世話になった方々に心からお礼を申し上げます。いつ
も、本当にありがとうございます。皆さんとユーコンで一緒に笑った思い出が私を支えてくれています。これからも、どうぞ宜しくお願いします。
独り言
Firth川の旅の予告編を書いてから、既に9ヶ月。あの後、正直、書
けなかった。あの壮大なFirth、日本で恐らく未発表のFirthを、どう書いていけばいいのか分からなかったのだ。久しぶり
に、自分をノック・ダウンするような素晴らしい川に出会っただけに、自分へのプレッシャーも大きかったのだと思う。
で、それをきちんと書けたかというと、そうではない気がする。いつか、自分の中でもっと
整理がつき、チャンスがあれば、きちんと書いてみたいと思う。
また、
今回掲載する写真は、全て小さなデジカメで撮影したもの。次回は、スライドで撮影したものを一挙に掲載したいと思っている。
ということで、上記のような理由から、今年の冬は一度もニュースレターを更新しなかっ
た。冬を越し、5月のユーコンはすっかり夏モード。日照時間はグングン伸び、春を告げるクロッカスと白鳥の訪れも一段落。私も毎週末のように友人たちと
ショート・カヌートリップの計画を立てるのに忙しい。実は、この原稿を書き上げたらすぐにユーコン川支流のタキニ川に向けて出発する予定である。タキニ川
は地元のカヌーイストにとっては絶好のプレイ・グラウンド。途中にカヌーの技術を練習するのに適当なエディやクラス2
(+)の瀬があり、しかもデイ・トリップで楽しめるのである(ホワイトホース近郊には、これが意外と少ない)。
月日を指折り数えると、ユーコンの夏がいかに短いかを実感する。よって「カヌーを漕げる
だけ漕ぐ。トレイルを歩けるだけ歩く。自転車に乗れるだけ乗る」というのがモットーになっている。
さあ、今年の夏も遊ぶぞ!
Yoshie
Kumagae
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